みんなが集まる場を利用して、もっと新しいものを生み出す場に

2017年4月10日

日本最大級のインディーゲームの祭典「BitSummit」が京都で開催されていることをご存知でしょうか?
2013年に第1回を開催し今年で5回目となる今回は、「A 5th Of BitSummit」と題して5月20日(土)、21日(日)に京都・みやこめっせにて開催されます。
国内外から多くの参加者・ゲーム関係者が集まるこのイベントの運営には、京都を拠点に活動するゲーム企業が多く関わっています。今回は一般社団法人日本インディペンデント・ゲーム協会(JIGA)理事長である有限会社キュー・ゲームスの富永彰一氏にBitSummitに対する熱い想いをおうかがいしました。

BitSummitの成り立ちについて

(富永氏)
普段、僕たちはゲーム作品を作ることが大好きで得意なんですけれども、それを実際に売ったりPRすることが実は苦手でした。「こんなんできた!」と面白いものをみんなにもっと知らせたいんですけど、そのためにはPRできる場、プレイしてもらうチャンスを自分たちで作らないとダメだな、と。BitSummitを始めたきっかけはそういうところからなんですね。
当時、キュー・ゲームスでは、PS3でPixelJunk™シリーズという自社パブリッシュタイトルを作って出していました。あるとき、社長(ディラン・カスバート氏)からプロデューサーのジェームズ・ミルキー※1にPixelJunk™をPRするイベントを企画してくれというお題が出されました。でも、キュー・ゲームスとPixelJunk™だけでは多くのメディアさんを呼び込むには至らない。それなら、関西には僕たちみたいな同じような会社さんがたくさんあるからみんなで集まってイベントやったらどうや?ということになったんです。そうすることでインパクト強く打ち出せてメディアさんも注目してくれるんじゃないか、ということで開催したのが、2013年の第1回「BitSummit MMXIII」でした。

日本のクリエイターと作品をワールドワイドにアピール

BitSummitのコンセプトとして、日本のクリエイターと作品をワールドワイドにアピールしていく、というのが一つの大きなコンセプトでした。ワールドワイドってのが重要で、えてして日本人クリエイターさんは海外への露出が苦手で、したくてもどうやったらいいという印象でした。
一方で、海外メディアのみなさんは日本のゲームが大好きで、彼らの知らない作品がきっと日本のどこかにあるんだろうという意識はあるんですけれど、それを知るためにはどこにどうアプローチしたらいいか分からないっていう問題があることもミルキーは理解していました。というのも、ミルキーはもともとアメリカのゲームサイトの編集長だったんですよ。
そこで考えたのが、ワールドワイドにアピールしたい日本のクリエイターと隠れた日本のゲームを見つけたい海外メディア、その2つのニーズをうまく合わせられるのではないかということでした。よりワールドワイドにアピールするためにも他のデベロッパーさんにもたくさん出展してもらうことが海外メディアを呼び込む上で必要でした。そして、知り合いに声をかけていくうちに、蓋を開けると100社近い数の開発者さんが集まった、というのが第1回目でした。

もちろん以前からクリエイター個人間のつながりはありましたが、BitSummitを開催するまでは会社同士のつながりは比較的薄かったように思います。しかし、BitSummitを回を重ねていくうちに京都、関西、海外までそのつながりが(現在進行形で)広がっていっていると思います。
さらにゲーム会社だけでなくIOT関連などゲーム周辺の会社さんや学校関係、行政関係も巻き込んでいっていることが面白いところだと思いますね。

インディーゲームの定義とは・・・

大事にしているのは「インディースピリッツ」です。それを持ってることが重要で、開催当初は比較的小さいスタジオが集まってるイベントだったんですが、決して少人数で作ってるとか、費用をかけない、ということだけがインディーゲームの定義ではないと思っています。
お金をかけてたり、人数の多い会社が作ったタイトルであったとしても、「今までと違うことやりたい!」とか「俺はコレを作りたい!」というクリエイターやチームの意志がしっかり感じられる作品であればインディースピリッツがある作品と言えると思います。

「インディーゲームはこれです」とできるだけ決めつけない

実は第1回開催の時、海外にはすでに「インディーゲームシーン」というものが存在していましたが、日本ではまだ「インディーゲームって何?」と言われる時代でもありました。インディーゲーム=同人ゲームみたいなものと思われていたこともあります。
「ドット絵じゃないのにインディーゲームと言えるのか?」というなんとも不思議な質問もあったりしました。おそらく2Dのドット絵からうけるレトロゲーム的な印象をインディーゲームと捉えてる人の意見だったと思います。
もちろん同人ゲームもレトロゲームもインディーゲームに含まれますが、それが「=インディーゲーム」ではないと思います。言い換えると、インディースピリッツがなければどんなジャンルのゲームでもインディーゲームではないと言えるでしょう。インディーゲームかどうかは作品単体ごとに決まるもので、ジャンルでくくれるものではないのではないでしょうか。

なので「インディーゲームとは何ですか?」という問いに対して、僕たちJIGAとしては「インディーゲームはこれです」とできるだけ決めつけないようにしています。「これもインディーゲームといえる」という感じでどんどん定義を広げていきたい。むしろ「こんなんどう?」という自由さがインディースピリッツには大事かなと。
逆説的かもしれないけど、インディーゲームという言葉が特別な存在じゃなくなって当たり前の存在になればいいと思っています。クリエイターが想いを込めて「作って→広がって→ウケる」という流れが自然なシーンになればいいなと。

クリエイター込みでインディーゲームを楽しんでもらいたい

第4回のステージイベント

出来上がった『製品』を出展してPRするのが一般的なイベントのスタイルだと思いますが、BitSummitの大事なところはたくさんの面白いゲームがあるだけではなく、その『作品』を作ったクリエイターがそこにいるということです。その場で体験して製作者と話ができるのが刺激的なところだと思います。
BitSummitでは、「僕らがコレを作ってる!」ということを言いたいし、クリエイター込みで作品を楽しんでもらいたいですね。
ゲームファンの方々にとってすごく興味あるイベントだと思いますが、普段ゲームをしないような方、BitSummitにまだ行ったことがない方は、行ってみて「わ!なにこれ?!わけわからん!」でいいと思うし、良い意味でのカオスを楽しんでもらえればいいと思います。

これからのBitSummitのかたち

もっと新しい、常に新しい発信をしていきたい

以前、「ちゃんとしたイベントらしくなってきたね」という感想をもらったことがあるのですが、それは果たしてBitSummitに対しての褒め言葉なのか?という思いが浮かびました。
BitSummitは『インディースピリッツ』が重要なテーマなので、国内外問わず既存のゲームイベントとは違う独自の切り口のイベントでありたいですね。そういう反骨心が大事なんやと思いますし、やるからには新しい発信を常にしていきたいですね。

当初は日本のクリエイターと海外のメディアを合わせる受け皿だったけど、だいぶ認知度があがってきて、時代も5年間でどんどん進んできて、これからの5年はもっと変わるでしょう。今はVR、AI、IoTなど様々な技術が出てきてテクノロジーの転換期だと感じています。そういう時こそクリエイティビティが重要で、別の分野の会社さんにもどんどんBitSummitに来てもらって知ってもらいたいですね。特に京都にはIoTのデバイスを作っている企業さんもたくさんありますし、そのような人達にもBitSummitに来てもらって、交流してもらったり技術を発表してもらえれば、もっと「未来はこんなことができるんや!」と新しい創造の発見があるかもしれません。

BitSummit自体を大きくしていくことが重要ではなくて、ここを中心としてそれぞれ独自のコミュニティやイベントが新たに生まれればいいかなと思います。そういう意味では、KYOTO VREX※2もそのひとつといえるかもしれません。VRもまだ新しくてどうやったらいいかみんな分かりませんから、やりながら手探りで進めていっている状態です。そのなかにある楽しい体験という部分はゲーム業界の人は関わっていけると思うし、積極的に関わっていく必要もあると思います。

みんなが集まる場を利用して、もっと新しいものを生み出す場にできればと思いますが、まぁ、ひとまずは面白いことをやろうとしてるから気軽に見に来てね、ということで十分かなと思います。

最後に、富永さんにとってのインディーゲームとは

俯瞰的な立場から言えば「多様性」ですかね。そもそもインディペンデントの意味は「独立性」ですから、それぞれのクリエイターがそれぞれのインディー観を持っていることを尊重することが大事だと思います。
一方、個人的なクリエイター視点では、「実験精神」ですかね。
「こうやったらどうなるだろう?」とか「なんと、こうなるのか!」とか。作品に携わる際には、なんでもいいので何か今までとは違う要素を試そうと常に思いながらやってきました。たとえば、長く関わってきたPixelJunk™は様々なゲームジャンルのシリーズ作品で、毎回違うことをやろう、という想いを持ってやっています。ゲームの中身はそれぞれ違うけれども、その中に通底する何か、たぶんそれがキュー・ゲームスのスピリッツになっていると思っています。

※1ジェームズ・ミルキー氏: BitSummit発起人。元キュー・ゲームスのプロデューサー
※2京都VR関連異業種交流カンファレンスの略。
 2017年2月に京都にて開催されたVRを活用した取り組みや展望についてのイベント

A 5th Of BitSummit開催概要

日  程
2017年5月20日(土)・21日(日)
時  間
10:00~17:00
会  場
京都市勧業館「みやこめっせ」 1階 第2展示場
主  催
BitSummit 実行委員会・一般社団法人日本インディペンデント・ゲーム協会(JIGA)
 ( Q-Games Ltd. / PYGMY STUDIO CO., LTD. / VITEI BACKROOM Inc. / O-TWO inc. / 17-Bit / Digital Development Management, Inc. / Indie MEGABOOTH )
・株式会社ワン・トゥー・テン・ホールディングス
・株式会社インピタス
・京都府
・京都コンピュータ学院
制  作
株式会社オリコム
WEB

http://bitsummit.org/2017/ja/

プロフィール

富永彰一
一般社団法人日本インディペンデント・ゲーム協会理事長/有限会社キュー・ゲームス クリエイティブ プロデューサー
1995年 ビデオ・マルチメディアコンテンツ制作会社に入社。企画からデザインやムービー制作、プログラミングまで幅広く制作全般を手掛ける。
2003年 Q-Gamesに入社。任天堂 デジドライブ(GBA), スターフォックスコマンド(DS) ではプランナーとして参加。その後、自社パブリッシュによるPS3のダウンロード配信専用コンテンツ PixelJunk™シリーズのディレクションに携わる。最新作 『The Tomorrow Children(トゥモロー チルドレン)』(PS4), PixelJunk™VR Dead Hungry (PC)ではサウンド全般のディレクションを担当。
BitSummitでは第1回から開催メンバーとして関わり、2015年 有志とともにJIGA(一般社団法人 日本インディペンデント・ゲーム協会)発足、理事長に就任。